なぜわからない
毎日、欠かさず、服薬しているわたしのことがわからないそうだ。
眠れるくせに眠剤を飲むわたしのことがわからないそうだ。
「あ、忘れてた」と欠かしても、何もないだろうとの事だ。
「毎日飲まなければならない」は、ただの思い込みだとの事だ。
何の薬を飲んでいるとの問いに、
眠剤、安定剤、抗うつ剤と答えた。
毎日、飲んでいれば慣れて効かなくなる
薬が増える一方だとの事だ。
効いていると言うと、それはおかしいとの事だ。
ただの思い込みだとの事だ。
眠剤にも安定剤にも抗うつ剤にも薬によって違うと言うと
薬によって違うのではなく人によって違うのだとの事だ。
「眠剤飲んだから大丈夫」という思い込みで
すっきり眠れるのであって、薬が眠らせるのではないとの事だ。
ならば、だ。4週間分。一気に飲んでも、健康体でいられるということだ。何も響かないということだ。一気に飲んでも、飲んでいないのと同じ状態であるということだ。
デパスとメイラックスでは同じ安定剤でも効き方が違う。
デパスは短時間でがっつり効く。メイラックスはゆったりと長時間効く。
だが、そうではなくて。ただの思い込みだとの事だ。
要は「なぜ、おまえなんかが飲まなければならないのだ」なのだろう。
必要ないではないか。ラムネでも舐めとけ。
ということである。
思い込みだ、気のせいだ、飲む必要はない、飲んで効いている気になっているだけだ
との事だ。
「自分はこんなにもしんどいのに、元気なおまえなんかに薬は必要ないだろう」
と言いたいのだろう。
わたしは眠剤を飲んでも神経が高ぶって眠れない、眠剤は眠らせる薬ではなくて、薬自体には何の作用もない、ただの思い込みだ
との事だ。
要は「気の持ちよう」である。
欠かさず薬を飲まなければならない理由がわからないそうだ。
欠かさず薬を飲んでいるわたしのことがわからないそうだ。
ならば。明日から一切、飲まなければ、満足か。
薬を断てば、満足か。
わたしは元気なくせに、その気になっているだけだ、と言いたいのか。
元気とはなんだろう。
わたしとはなんだろう。
精神科に偏見があったり、通ったことのない人から言われるのなら仕方がない。そもそも、わかることすらできない。
しかし。精神科に何十年も通っている人間に言われようとは。
おまえみたいな元気なやつが行くところじゃねえんだよ
と言いたいのだろうか。
初診のわたしは元気だったのだろうか。
今のわたしは元気なのだろうか。
思い込み、気のせい、気の持ちよう
みなさん、それでなんとかなっていますか。
それで生きていけますか。
死なずに生きていけますか。
普通に生きていけますか。
初めてリスカをした時分を思い出す。
流行ってるからかっこいいと思って、馬鹿な流行りにのりやがって。甘えるな。みっともない。ブチブチブチブチしつこい。傷の舐め合い。いっそのこと手首切り落とせ。そんなに心配してほしいのか。同情されたいのか。気持ち悪い。なりたがり。
人生なんて、どうにもできないと思っていて、生きている実感もなくて、日々死ぬような思いだったのだから。
いっそのこと、あのとき、死んでいればよかったのだ。
遡れば。車に轢かれて死んでこいと言われたとき「はい」と死にに行けばよかったのだ。
もっと遡れば。自分なんていなければ良いと思っていた、あのとき。ランドセルを背負いながら、何度も何度もマンションから下を見て、今だ今だと思っていたあのとき。
飛び降りて死んでいればよかったのだ。
もっと遡れば。延長コードで自分の首を絞めて、このまま死んだらと思っていたあのとき。
自分で自分を絞め殺せばよかったのだ。子供だったのだから。なんとでもなっただろうに。ランドセルも必要なかっただろうに。
遡れば機会はたくさんあったのだ。
大人になれば思いとは別に、機会は難しい。
子供なら思うがまま行動できたのだ。
お産の際、わたしは泣かない子だった。
逆さにされて何度も叩かれて、やっと泣いた子だった。
泣かなければよかったのだ。
わたしは予定日を過ぎても出てこない子だった。
そのまま出てこなければよかったのだ。
機会はたくさんあったのだ。
誰が何がわたしを生かした。
わからないうちに死んでいれば、こんな思いをしなくとも、よかったのだ。
ここまで来ればもう遅い。
あとは腐ってゆく自分に付き合うだけだ。
主治医に伝えよう。母のことも。今のことも。
疲れた。頭が疲れた。
目を閉じて、何も考えず、そのまま。
遠くに行きたい。遠く遠く遠く。
そして、そのまま、わたしがなくなってしまえばよいのだ。